皆さん、たばこはおいしく吸えているでしょうか?
この記事に来ていただいた皆さんは、おそらく「たばこをやめたいな」と思っている方々がほとんどだと思います。
筆者(プロフィールはこちら)は2017年1月に禁煙を開始し、2020年1月現在も禁煙は継続しています。
「そんな簡単にたばこやめれたの?」なんて思ってしまうほど、僕はかなり楽な方法でたばこをやめることができました。
そこで今回の記事では、「たばこをやめたい経緯」や「楽に禁煙に成功した方法」を『禁煙体験談』としてご紹介したいと思います。
禁煙するときって、
どうやってやめたのか?
きつくなかったか?
どう思っていたか?
禁煙は続いているのか?などなど
こんなこと気になりませんか?少なくとも僕は気になっていました。
ですので、そんな疑問に少しでも答えられればと『体験談』という形をとらせていただきました。ひとりでも多くの読者の皆さまの参考となり、『禁煙』が成功することを願っています。それでは記事本編に入っていきたいと思います。
プロローグ
朝起きて吸う、朝食を食べて吸う、仕事前に吸う、仕事中に吸う、昼食を食べて吸う、仕事終わりに吸う、家について吸う、風呂に入って吸う、夕食を食べて吸う、寝る前に吸う・・・。
もちろん、吸うとは『たばこ』のことだ。
こう書き出してみると、いかに自分が嗜好品に過ぎないこのたばこというものに支配されていたかが分かる。
僕は、いわゆる喫煙者であり、ニコチン中毒者だ。
どこに出かけるにも、何をするにもたばこが頭を付きまとい、挙句の果てには明日明後日の分のたばこが確保できているのかの未来さえ支配されている。
喫煙者なんてみんなこんなものだ。
自分に言い聞かせるようにして、また火をつける。
不思議なもので、火をつけて、煙を体内に取り込む。
それだけで、ストレスは消え、新たな活力を得られる。
そんな風に思っていた。
喫煙所では仲間の吐き出した煙を吸い、お返しとばかりに煙をお見舞する。
胸ポケットが軽くなると、財布を軽くして胸ポケットの重さとひとときの安心を得る。
1日1箱、ノルマでもかせられたかのように、灰と煙、そして灰皿に山をつくる。
つけた火が、指をやけどさせるくらい短くなると、ふと「禁煙しなきゃな」と思う。
でも、次の1本に手を伸ばし、先延ばし、先延ばしと喫煙歴を重ねる。
それが喫煙者だ。
でも、禁煙しなきゃと思っているのは事実で、そのタイミングを探しているのも事実だ。
正直、煙草の値上がりとか、世間の目とか、やめるための理由は山ほどある。
喫煙者にとってはそれは小さな理由に過ぎず、増える咳と伴う痰が、身体からのSOSであることが本当の理由である。
「なんかいい方法ないかなぁ」
言っている言葉も軽いが、当人はもっと軽い気持ちでこの言葉を繰り返している。
それが喫煙者だ。
そして、それが喫煙者であった僕だ。
人間誰しもがキツイことは好きではない(一部の人種を除くが)。
喫煙者にとって、この世で一番恐れ、キツイと思っていることそれが禁煙だ。
その禁煙に、この喫煙者である僕が挑むお話をしたいと思う。
初めに言っておく。
「なんかいい方法はある」と。
電子たばこ購入
それは2016年7月、これから迎えるはずの本格的な暑さに嫌気がさす日々の中、いつものようにベランダで火をつけた。
その火はこれまで何万回と見てきた火と大きな違いはなかったが、先っぽでゆらゆら揺れる陽炎を見て、ふと思った。
「禁煙してみようかな?」と
それから行動は早かった。
喫煙者がよく考えがちなこと。
それは禁煙の手始めにたばこの本数を減らすことと、たばこを何かに置き換えることだ。
僕は、電子たばこに頼ってみることにした。
購入したのはこんな感じのものだった。
(先に言っておくが、この禁煙はもちろん成功しない。)
最近の技術の進歩はすごいとよく言うが、正直初めて電子たばこを吸ったときは、「禁煙できる」そう思った。
電子たばこの作り出したそのモクモクとした煙は、あっという間に僕の肺を満たし、吐き出した姿はさながら大道芸のワンシーンを見るかのようだった。
選んだグリーンアップルの香りも悪くはなく、たばことは違うがこれはこれで満足した。
10回ほど吸っただろうか?ベランダに出ていた僕は、室内に戻り、たばこの本数を数えていた。
「これで二日乗り切ろう」
ルールを決めた。
一日に一箱吸っていたたばこを二日で一箱に制限し、その代わりいくらでも電子たばこは吸っていい。
そのルールを決め、たばこの本数をまた確認し、僕はたばこを一服した。
その日から、一部の喫煙を電子たばこに置き換える生活が少しだけ続いた。
電子たばこの作り出す煙を肺から出すとき、思ったより煙が薄く見えた。
電子たばこを吸った後にすぐ、たばこを吸うようになった。
電子たばこはたばこに置き換わらなかった。
むしろ、電子たばこを吸おうと思ったときに一緒にたばこを吸い、たばこを吸おうと思ったときに一緒に電子たばこを吸う。
そんな習慣ができた。
ルールは全く守れなかった。
電子たばこは嗜好品としては優秀なものだと思う。
ただ、たばことは違った。
暑いベランダで、同じ陽炎を見ながら、この禁煙は終わった。
禁煙セラピー購入
相変わらずベランダは暑い。
でも、吐く煙越しに見る地上7階からの風景は相変わらず良いものに見えた。
火を消して、室内に戻る。
慣れたニオイを体にまとわせながら、いつものベッドに寝転んだ。
新調したスマートフォンは、さまざまな情報をどこからともなく僕に運んでくれる。
良いことも悪いことも、新しいことも古いことも、興味があることもないことも。
あなたにオススメとの記事もなんだか最近増え始めた。
電子たばこのことをせっせと検索していた僕の元には、おせっかいにもどこかのAIがチョイスしてきた禁煙をテーマとした記事がこれみよがしに並べられていた。
並べられた記事のタイトルには、喫煙者としてはあまり気持ちの良くないワードと、それに交えた健康に関するトピックが連ねられ、禁煙を急かされているようで、世の中に背反している喫煙者というレッテルを改めて見せつけられたような気がした。
そういう時は、基本的にブラウザバックして、気になるガジェットや家電のニュースでも見て、次のたばこの時間を待てばいいと、そう思っていた。
でも、そのとき、目立つ黄色い表紙の本の紹介が、僕のスマートフォンに舞い込んできた。
タイトルは『禁煙セラピー』。
どうやら禁煙に関する本の紹介のようだった。
『読むだけでたばこをやめられる』というキャッチコピーは、重度の喫煙者である僕にとって魅力的な言葉であり、なんとなく読んでみようかなという気にさせてくれた。
いつもなら本なんてAmazonに注文して、何日か後に読み始めるのだが、その日は街の本屋に足をのばすこととした。
財布とスマートフォン、そして相棒をハンドバッグに忍ばせ、ギラギラとした日に逆らうように家を出た。
なかなかこうも禁煙関係のことにフットワークが軽いのは珍しく、言葉を借りればなんだかいける気がした。
本屋につき、禁煙セラピーを探したが、このような本を買ったことがないため、どのコーナーにあるのかわからない。
店員さんに聞いてみることにした。
「禁煙セラピーって本、どこにありますか?」
定員さんはいつもどおりの笑顔で、こちらです、と案内してくれた。
けど、「この人禁煙するのかな?」なんて思われてたら恥ずかしいなとも思い、顔は伏せぎみだったのは否めない。
「こちらになりますね」
「ありがとうございました」
スマートフォン越し、一時間ほど前に見た黄色い表紙に、「これならやめられる」という言葉をくどいほど並べた帯がつけられていた。
「こういう本、あんまり好きじゃないんだよな」
そう思いながらも、ここは喫煙者、楽してたばこをやめられるなら、本の一冊でも買うというものだ。
千円で少しのおつりがくるお金を払い、喫煙者は『禁煙セラピー』を購入した。
本屋の喫煙所で一服しながら、目立つ黄色い表紙をハンドバックにしまった。
この一本がもうすぐなくなるとするならば、それはそれで悲しい気分になるなと考えながら、火をもみ消した。
禁煙セラピー断念
禁煙セラピーを購入し、200ページほどの薄い本を、一日数ページのペースで読み進めた。
世間のレビューがものを言っているように、たばこがやめれる気がした。
なんでたばこを吸っているのか不思議になった。
たばこを吸ってストレスが解消されるのは幻だと知った。
僕は小説が好きだ。
ページをめくればめくるほど、その次を知りたくなる。
自ずと、ページをめくるスピードも上がる。
禁煙セラピーはどうだったかお教えしよう?
おもしろいし、説得力もあるこの本の1ページは、読めば読むほど重くなる。
その章をを読み終える前にしおりを挟む。
そしてたばこに火をつける。
この禁煙セラピーによると、禁煙開始はこの本を読み終えたそのときである。
今は、たばこを吸うことを許されている。
明日も多分、まだ喫煙者でいられる。
「僕にはまだ禁煙に取り組むのはまだ早かったようだ」と言いたくなる気持ちを抑えて、1ページをめくると、禁煙のスタートラインが1ページ分見えやすくなる。
この本は読む人の心の持ち方によって、2通りの気持ちを奮い立たせることができる。
ひとつは禁煙へのポジティブな気持ち。
「早くこの本を読み終えて、早く禁煙して新しい自分になりたい」
そして、もうひとつの気持ちが僕が抱いた気持ちだ。
「禁煙を始めるのが怖い」
重く、重くなったその1ページは、今の自分ではめくれないほどにまでになっていた。
そして、禁煙セラピーを開くことすらなくなり、喫煙者は喫煙者のままだった。
まだ蝉も鳴いている、照り付ける太陽もまだ隠れる様子も見せない。
2016年7月終わりのことだった。
禁煙、しばらくお暇いただきます
本を読まなくなった。
本数は増えた。
我慢しようとしていた反動だろうか?
でもやめるまでのしばしのお暇であると考えていた。
相変わらず暑いし、たばこもうまい。
これが喫煙者の日常である。
吸う本数が増えたからであろうか?
部屋をガンガンに冷やす冷房のせいだろうか?
前より少し喉がつまる感覚や咳が増えた気がする。
たばこは吸っておきながら、誰しもが健康を求める。
重篤な症状が出てくる周りの諸先輩たちは、たばこをふかしながら健康診断の結果を語り合う。
それでもたばこはやめられないと、煙をおいしそうに口にふくませる。
「こうはなりたくないな」
自分にはまだ先の話だと、お暇を優雅に堪能していた。
本を買ったときより大きくなった灰皿山は、禁煙の失敗なんて気にしないとでも言いたそうに、いやな臭いを出しながら、誇らしげにそびえたっていた。
「僕にはまだ早い」
そう思いながら2016年の夏が終わった。
職場の先輩の禁煙
少し涼しくなった2016年10月。
夜、ベランダで吹く風に乗せて吐く煙が好きだ。
吸う量が増えたけど、元には戻らなかった。
ある日、職場でお世話になっている先輩が禁煙した。
本数を少なくしたのでも、本を読み始めたでもなく。
もう1本も吸いたくないらしい。
一度好きになったものは、なかなか嫌いにはなれない。
そう思ったのだけれど、どうやらもう本当に吸いたくないようだ。
どうやってやめたのか聞いてみようとも思ったけど、聞いたら禁煙を進められそうで、そのときはやめておいた。
家に帰りベランダに出る。
たばこを吸いながらだが、どうやって先輩は禁煙したのか考えていた。
「よくやめれたよなー」
二度失敗した禁煙を身近な人が達成したと聞くと、なんだか自分がみじめに思えてきた。
「やっぱり明日聞いてみよう」
火をもみ消し、部屋に戻り、とりあえず、がさごそと禁煙セラピーを奥のほうからとり出した。
職場の先輩のお話
次の日、先輩に率直にどうやって禁煙したのかを聞いてみた。
どうやら『チャンピックス』という薬を使って禁煙したらしい。
これまで、ニコチンパッチやニコチンガムを使った禁煙の話は知っていたが、チャンピックスという薬は初めて知った。
先輩はしきりに自分の禁煙成功を大きく盛って話しているようであったが、禁煙成功は事実、それくらいの価値があることは喫煙者なら皆がわかるだろう。
この話で一番気になったことは、この禁煙はつらくなかったと言うのだ。
そして、しきりにたばこがまずくなったと付け加えていた。
そして、最後の最後に、その禁煙方法を絶対にやってみるべきだと強く押された。
正直、「本当に薬を飲むだけで禁煙できるなら、なんでこの世から喫煙者はいなくならないんだよ」と思った。
「飲んだら痩せる」だとか「塗ったら生える」とかその類のようなものに感じてならなかったのだ。
その場では「試してみます」と言ったものの、本当に試してみようとは思っていなかった。
家に帰り、忘れかけていた薬の名前をグーグル先生に聞いてみた。
チャンピックスは、ファイザーから売られている薬で、日本では2008年に認証され、禁煙外来でも治療に使われているようだ。
化合物名でいうと『バレニクリン』、初めて聞いた化合物名だったが、その構造は見慣れたものだった。
「チャンピックス 禁煙」だったり「チャンピックス 効果」で検索すると、高評価の記事が多く、「簡単にやめられる」、そのワードが良く目についた。
試してみてもいいと思った。
かかる費用も大したことなさそうだったし、なにしろ薬を飲むだけで、禁煙できる。
やめれなくてもいいから、チャンピックスを買うだけ買ってみることにした。
先輩にすぐにラインした。
禁煙仲間が増えるぞと、先輩は喜んでくれた。
チャンピックス購入
2019年11月初め。
個人輸入なので少し届くまでに時間がかかったが、無事に僕の元まで来てくれた。
新たな禁煙のスタートに立てた気がする。
この薬を手に入れるだけで、少しだけ健康になれた気がしているのはおそらく錯覚だろう。
今日のたばこのお供に、チャンピックスの説明書を読む。
たばこを吸いながら、禁煙方法を見る。
何とも不思議な感覚だが、なにかいいことでもしている気がして、なぜか気分がよかった。
「三か月くらい薬を服用するのか」
「副作用もあるみたいだな」
身体に害があると調べつくされたたばこはバカバカ吸うくせに、薬の副作用が気になる。
どんな薬にも多少なりとも副作用があることは、これまでにも知ってたし、学んできたはずだが、今回はなぜか副作用が気になった。
「副作用があるなら薬飲みたくないなぁ」
この薬を飲み始めれば必ず、このたばこを手放す時がくる。
たばこを手放したらどうなるんだろう?
朝、ごはんのあと、仕事中、寝る前・・・
まだ、服用すら始めていないのに、やめた後のことが気になる。
「やめると、ストレスとかすごいんだろうなぁ」
たばこをやめたことを想像したことによるストレスで、たばこ一箱いけそうだ。
普段は能天気な僕でも、禁煙のことになったら不安になるのであった。
チャンピックスは手に入れたし、あとは薬を飲み始めるだけ。
その日はそれに満足して、ベランダに出てルーティンを済まし、一日を終えた。
薬飲まず放置
チャンピックスが届いて一週間が経過した。
たばこはおいしいままだ。
禁煙を始めるにはタイミングが重要だとよく言うが、その通りだと思う。
今はやめるには仕事が忙しすぎる。
この相棒とお別れをするには、時と理由が大切なのだ。
相棒は、仕事のパートナー、頭の回転数を上げてくれる。
もう少ししたら、仕事も落ち着く。
そこが薬を飲み始めるタイミングだと思っていた。
そして2016年12月を迎えた。
外はすっかり寒くなり、世間は忙しいムードだ。
ベランダに相変わらずお世話になっている僕は、白い息か煙かわからないながらも、なにかを吸って吐いていた。
たばこをやめる理由探しに僕は忙しかった。
チャンピックスの一錠目を飲み始めるタイミングを完全に見失っていた。
たばこをやめる理由なんて、探さなくてもたくさんある。
探していたのは、やめなくてもいい理由、吸い続けるための言い訳だった。
薬代として投資したお金分のたばこ代が、僕の財布から消えた。
作り続けた灰皿の山に冷たい風が吹き、崩れかけの山を見て見ないふりをした。
喫煙者は、人によらず、偏にたばこのことに関しては弱い。
どんなヘビースモーカーでも愛煙家でも、どこかに喫煙者としての負い目がある。
たばこをポイ捨てする人を、僕らは軽蔑する。
たばこは喫煙所だけで吸う。
それが喫煙者カーストで上に立つために必要なことである。
しかし、その喫煙者カーストは、世間に目を向けると、現在、下の下の位置していることを知っている。
けど、やめられない。
薬も飲み始めない。
どこかで禁煙から目をそらし、世間から目をそらし、自分のために喫煙を肯定したい僕がいた。
相変わらず、たばこはおいしかった。
実家に帰省
2016年年末、僕は例年通り長い休みをもらい実家に帰省した。
父が使っていた灰皿を、僕が使うようになっていた。
父は、病気をして初めてたばこをやめた。
だから、その灰皿を使うのは僕だけだ。
そして、その灰皿を使わなくなる時は、父と同じ病気になった時なのかなと、軽く思っていた。
そういう状況でも、たばこはやめなかった。
母は、小学校の養護教諭をしている。
小さいころから、父を反面教師にするようにと言い、たばこをはだめなものだと頭に叩き込まれた。
たばこはだめなものだと思っていた僕は、父のたばこを隠したりもした。
そういう環境にいるのに、僕はたばこを吸い始めた。
自分がたばこを吸うなんて思ってもみなかった。
たばこを吸いたいと思っている今の時間、たばこを吸っていなかったころはどう過ごしていたのだろう?
そして、吸い始める前の僕と今の僕を見比べて、戻れるなら前の僕に戻りたいと思った。
あのとき吸い始めなければと、あのときの自分を呪った。
それしかできなかった。
正確に描くと、それしかしなかった。
禁煙するための条件は、そろっていたはずなのに、だ。
禁煙するかもしれないと家族に伝えた。
今ではこんな薬もあるんだよと添えて。
家族は皆、喜んでくれた。
そして、聞かれた。
「いつから薬飲み始めるの?」と。
僕は答えた。
「今は薬の副作用とかが心配だから、いろいろ調べてから薬を飲もうと思っているよ」
と。
薬の副作用は、客観的に見ても、自分の目から見ても言い訳だった。
父の灰皿を賑やかにし、僕は故郷を後にした。
引いたおみくじが「大吉」だったのは幸いであった。
転機
年が明け、日常に戻りつつあった。
忘年会と称して執り行われる飲み会も、正月のお祝いも終わったが、新年会という体の飲み会の日々が僕を待っている。
それも日常、毎年変わらない行事のひとつ、そして、たばこに対する僕の取り組み内容も以前と変わらない。
飲み会が続くと、自ずとたばこの消費も激しくなる。
明後日の分と明々後日の分をコンビニで調達した。
この時期は、近くのコンビニに向かうことさえ億劫になるほどの寒さである。
定番のポジションも、ベランダから換気扇の下に専ら定まりつつあった。
ベランダで吸うより、換気扇の下で吸った方が寒くはないが、部屋の空気を悪くする。
しかし、それにも気づけないのが、僕たち喫煙者だ。
仕事が終わり一服する。
今日の仕事はまだ終わらず、新年会と称された飲み会に向かうこととなった。
飲み会では、何気ない世間話、「正月太った」とか、「仕事始めはつらい」だとか。
まだ正月気分の抜けない、2017年はじめの出来事だ。
世間話を肴にし、酒をほとんど飲まない僕は、代わりとばかりにたばこに火をつけた。
その世間話の間を潜り抜けて、あるワードが僕の耳に届いた。
「まだ禁煙はじめてないの?」
ご存じ、僕にチャンピックスを教えてくれた先輩だ。
「副作用とかが怖くて」
ご存じ、いつもの言い訳だ。
「だまされたと思ってやってみろって!」
もちろんその気はあるし、物も揃っている。
なぜか気が進まないのである。
でも、ふと思った。
だまされた気で、薬だけ飲んでみようかと。
先輩だけでなく、飲み会に来ている非喫煙者も、僕の禁煙を囃し立てた。
ここが僕のタイミングだと思った。
思ったというより、この場で強制してもらおうとも思った。
そして、ひとつの決意をした。
「たばこやめる気はないけど、薬だけ飲みます!」
笑われた。
「薬でたばこがおいしくなくなっても、僕はたばこを吸い続けます!」
いいのか悪いのか、発想の転換なのか、その場のノリというものに流されやすい僕は、チャンピックスを飲むことと、禁煙から抗うことの、相反したふたつを、皆の前で宣言した。
この一見矛盾した、相反する決意が、今となっては禁煙の成功に功を奏したと思っている。
そうして、僕は、禁煙への大きな一歩をようやくだが踏み出すことに成功した。
電子たばこを買って、半年とちょっとが過ぎていた。
チャンピックス服用開始
2017年1月29日、初めてチャンピックスの封をきった。
僕がまず始めたのはチャンピックスのスタートパックだ。
はじめは、通常服用するサイズの半分のサイズの錠剤を、一日に一錠服用する。
米粒よりも少しだけ大きい錠剤が、僕のニコチンへの依存をどうにかしてくれるのだと思うと、身体は脳の奴隷か、とも思った。
飲んですぐ、「一錠目を飲んだこと、そして、まだなんの効果がないこと」を、このために作ったライングループに報告した。
先輩に、ちゃんと薬を飲んでいるかを報告するためのライングループ。
始める前はだるいなとか思っていたが、実際始めてみると悪い気はしなかった。
最初の日の報告義務をしっかりとこなし、いいつけの通り喫煙者をやめないための努力をした。
二日目三日目も同様に、米粒より少し大きいくらいの錠剤を飲み、ライングループに報告した。
身体に大きな変化はない。
良くも悪くも、『薬によるたばこの支配』に屈することはなさそうだ。
たばこの本数も、おいしさも、日々の生活も変化はなかった。
禁煙セラピーを最初から読み始める
本棚に鎮座している小説や雑誌、教科書の中に、ひっそりと、だけども堂々と目立つ黄色い表紙。
忘れ去られた本を改めて掘り起こしてみた。
半年くらい前に一度挟んだしおりを抜き取り、表紙の次のページに挟み直した。
折角の機会だ。
僕の喫煙人生を終わらせようとするものすべてに逆らってみよう。
謎の心意気と、逆向きのチャレンジ精神で、禁煙に対する恐れなどこれっぽっちも持たなかった。
持たなかったというよりはむしろ、持つ必要がなかったと書くほうが正しいかもしれない。
なぜなら当人はたばこをやめる気などないのだ。
改めて開いたページには、たばこに関することが様々な角度から書かれていた。
前回、禁煙セラピーを読んでいたときより、ページの重さが軽く感じた。
今回待っている結末は、僕が禁煙に逆らい、無事にそれを達成するというものだからだ。
僕ら喫煙者が恐れおののいている禁煙とは正反対だ。
そのようなことを考えながら、四日目、一日に二錠になったチャンピックスを、言われたとおりに飲み、ライングループに報告した。
「全然、たばこおいしいです!」
たばこがまずいと感じることもなかったが、恐れていた副作用も全くなかった。
良くも悪くも、僕のたばこへの依存は、チャンピックスや禁煙セラピーに負けるほどやわなものじゃないと、不思議な笑みがこぼれた。
たばこをまずいと思い始める
四日目以降、一日二錠になったチャンピックス。
ふと、「あれ?」と思い始めたのが、五日目の寝る前の一本であった。
吸う時間、本数、銘柄、なにも変わっていないのに、なぜかその一本に違和感を感じた。
もちろん体調も万全だし、副作用もない。
そしてたばこをやめようなんてこれっぽっちも思っていない。
いつもとなにも変わらない『寝る前の一本』に、かすかな変化を感じてしまったのだ。
とりあえず、ライングループにその旨を報告した。
これまで感じたことのないたばこへの感情が生まれた瞬間だった。
たばこがどんどんまずくなる
喫煙に違和感を感じたその日から、その違和感はどんどん増し、とうとう『たばこがまずい』と感じるようになってしまった。
長い時を要しているようだが、チャンピックスを飲み始めて六日目の話である。
ただ単に、たばこがまずく感じるだけで、副作用は全くなかった。
こんなまずいものなんだから身体に悪いんだろうと、その時初めて思った。
まずくなるという感情を説明するのはなかなか難しいのだが、何かヌルっとした灰色の煙を吸い込み吐き出しているような、気味の悪い感覚を感じるようになってしまった。
その日の寒いベランダは、寒さというより、その気持ち悪さで後にする時間が早かった。
部屋に戻ってすぐに、ライングループにこのように報告した。
「たばこがまずく感じ始めました。でもまだ頑張ります」と。
禁煙セラピーも同時に読み進めた。
今まで流し読みしていたが、改めて、喫煙にメリットはないことがダイレクトに伝わった。
六日目。
おかしなことを言っているかもしれないが、こう思った。
「はやくたばこをやめさせてくれ」と。
禁煙に逆らう
チャンピックスを飲み始めて七日目。
この日は、昨日よりも増してたばこがダメになっていた。
灰色の煙がヌルリと肺に入ってくるあの感覚は、今でも覚えている。
習慣として残っているたばこを吸うという行為を、ただたばこに火をつけることで実行しているに過ぎない状況になった。
負けるわけにはいかない。
しかし、おいしくて、ストレスを解消させるたばこはもう過去の話となり、禁煙セラピーの言葉もまして、「なぜ僕はたばこを吸っているんだ?」という気持ちが強くなっていった。
灰皿を見ると、一口吸って火を消した「ほぼ一本まるごとのシケモク」が増え、一本25円ほどのごみを量産していることに気付いた。
なんで僕は高い金を払いたばこにちょっとだけ火をつけ、それをゴミにしているのかと不思議な感覚にとらわれた。
一日二十回程の習慣はそのままに、禁煙にさからうという無駄な状況に、少し笑けてきた。
禁煙スタートしてしまう
チャンピックスを飲み始めて八日目。
夢から覚めても、たばこはまずいままだった。
先輩に、この状況をラインで伝えると、スマホを手にしてドヤ顔をする先輩の姿が浮かんだ。
そして、チャンピックスをやせ薬の類だなんて言っていたことを思い出した。
「普通、薬で禁煙できるなんて言ったら、誰もがそう思うだろ」
そう思いながら、まずいたばこの火を消した。
もう「たばこを吸うという行為」自体が、「たばこに火をつけるだけの行為」に変わっていた。
「たばこを吸いたいという気持ち」より、「たばこはおいしくないし、ベランダが寒いから外に出たくないという気持ち」の方が強くなり、なんだか頭がおかしくなった気がした。
夜、ベットで禁煙セラピーを読む。
残されたページもあと少しになった。
最初、この本を断念したページはもうとっくの昔に追い越していた。
チャンピックスによってまずくなったたばこは、禁煙セラピーによって『僕の人生で全く意味を持たないもの』となってしまった。
1箱20本のたばこのケースにあと15本くらい残されていた。
たばこを吸い続けるため、禁煙を阻止するため、何箱か買っていた中の最後の一箱。
不思議だが、この一箱が前よりもすごく軽く感じた。
箱をベットの隅に置き、禁煙セラピーのラストスパートに入った。
マラソンなんかのラストスパートとは違って、全く息は上がっていないし、むしろ落ち着き、スッキリとしていた。
そして、これから待っている生活に少しだけワクワクしている自分がいた。
禁煙セラピーの最後の1ページは、とても軽くて清々しい1ページだった。
僕はベットから起き上がり、寒くて風の強いベランダに立った。
慣れた手つきでたばこに火をつけた。
大きく吸い込むと、もうおいしかった頃のたばこの味ではなく、もうこの味が僕の中のたばこの味になってしまったのかとしみじみ思った。
でも、少しの寂しさもなかった。
真っ暗なベランダに、赤い火が燻っていた。
それを僕は、スマートフォンで写真に撮った。
そして、もう一口、大きく吸い込んだ。
冬の空気の冷たさと、燻されたたばこの煙が交じり、気体となったタールとニコチンは僕の肺に入ってくる。
その煙を、大きく夜空へ吐き出した。
白い吐息と煙は、夜空へ吸い込まれていった。
このとき、僕の喫煙人生が終わった。
残された14本を、当たり前のようにゴミ箱に放り込んで、自分はベットに飛び込んだ。
もう自分は喫煙者じゃない。
なぞの高揚感と、なぜかその時感じた禁煙の成功、そしてこれから待っている非喫煙者としての生活に笑みがこぼれた。
たばこをやめないつもりでいたのに、なぜか調べておいたスマホアプリ 『禁煙ウォッチ』に登録して、喫煙者最後の日を終えた・・・(つづく)。
続きの記事
たばこラスト1本を吸った後、筆者が待ち受けたものを記事にしております。禁断症状はなかったのか?そしてたばこをやめてどんな良いことが待っていたのか?そんなことを書き綴っております。本記事の続編です。是非ともこのままお読みください。
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